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球は天高く、夢は果てしなく
第9回「初ラウンド」

2004-04-12


イラスト/ツトム・イサジ
 3月に入り、春の匂いが漂い始めている。
 今月初旬、一週間ほど時間を作り実家に帰っていたのだが、思いがけず春の大雪に見舞われた。ストーブの上のやかんから沸き立つ湯気と、窓の外で、ボタン雪が舞い落ち積もっていく様子をジーっと眺めながら、SADEの「By Your Side」をなんとなく聴いていたら、ゴルフを初めてラウンドした時の記憶が、蘇ってきた。

 プロゴルファーになるという決心をしてから、3月の卒業式を迎えるまで、まったくといっていいくらいゴルフの練習はしなかった。「マラソンなんぞに熱中しているヒマがあったら、早くボールの一球でも打ったほうがいいだろうに」と、誰もがいいたくなっただろう。(私の決心は、極々一部の人にしか知らせていなかったので、そのようなアドバイスを受けることもなくのんびりと充実した大学生活をキチッと全うすることができた)まぁ、自分のクラブすら持っていなかったので、練習以前の問題だったわけだけれど・・・。\n 初めてのクラブは、「REXTER LT-100」を買った。ブリヂストンのIさんのお世話で、ずいぶん安くしていただいた。それでもすねかじりの学生の身分には、それなりに高価なもので、毎月の仕送りの一部と母が、「就職活動に必要だろうから、これで服を買いなさい」といって送ってくれていたお金を使わせていただいた。(申し訳ありませんでした)\n
 2月15日(晴れ)大隈ゴルフコース。
 陸上競技部のF先生と一緒に、届いた新品のクラブの中から、5アイアンとPWだけを持って、(パターは、先生のを借りて)18ホールを初ラウンドした。その日の私の日誌には、「とにかくカップの中に入れること。前に飛ばすこと。それに必死だった」とだけ、書かれてあった。
 そう、必死だった。ボールを追いかけながら、これからどれだけの練習をしなければならないのかということを、ヒシヒシと感じ取っていた。
「楽しかった」などという記憶は、まったくない。打つごとに、自分の腕前が分かっていくのだから・・・。
 ラウンド後、芝の上で弁当を食べながら先生は、「ショートゲーム、上手いじゃん」といって、誉めてくださったけれど、「えらいことをしようと、考えちゃったなぁ」と、本気で思っていた。プロゴルファーを目指すということがどういうことなのかということを、頭ではなく、体で初めて理解した日だった。
 それにもかかわらず、それから千葉に移動するまでの一カ月半の間、やっぱり練習はしなかった。何故だったんだろう、と考えてみる。初ラウンドをしたあの日、「これから私が踏み入れていこうとしている世界は、おそらく、途方もなく孤独な世界なんだろうな」ということを確信した。毎日、私は、私の中にいるワタシと語り合い、長い時間を過ごしていくことになるんだろう、と。その孤独に耐えられる“心の準備”をしていたんじゃないだろうか。これから途方もない数のボールを打っていくことになるその前に、私なりの“覚悟”をする時間が必要だったんだろう、と思う。

“途方にくれた”記念すべき初ラウンドのスコアは、137だった。(その時のボールは、137と書かれて、大切に箱の中にしまってある)

イラスト/ ツトム・イサジ

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