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スローゴルフへの誘い
第129回「レストランに慣れるまで」

2006-03-06


 ゴルフを始めたばかりの頃、クラブハウスのレストランの雰囲気に慣れるまでに、相当の時間がかかったものだ。場違いのようで、なんだかお尻が落ち着かない。周りのすべての人は自分よりゴルフが上手そうだし、いや絶対に上手いし、何より誰もが偉そうに見えた。そのような気後れが、どうにもボクをそわそわさせていたのだろう。
 そんな話をあるトーナメントプロにすると、「実はボクも……」といって、若き日の告白を始めるのだった。

「トーナメントのレストランでは、どうしても強い選手が中央になるものです。そして強い選手には、たくさんの取り巻きがいます。それもあって、どうしても中央の座席には近づけない。若い頃は、レストランの雰囲気から逃げ出したくて、実際にコンビニのおにぎりで朝食を済ませていた時代もありました」
 大正生まれのあるプロは、いわゆる名門と呼ばれるゴルフクラブでプロになった。戦前の話である。そこで興味深い話を伺ったのだが、当時のプロたちはレストランにも入れなかったのだそうだ。なぜならクラブハウスはメンバーのもので、プロたちはメンバーに雇われている従業員だからである。そこには「スポーツでお金を稼ぐのは卑しいこと」というアマチュアリズムの精神も深く関係している。戦後、新興のゴルフクラブに移ったとき、「初めて人間らしい扱いをされた」と、大正生まれの大御所はいった。さらに付け加えて、
「プロゴルファーという職業が認知され、社会的にも評価されるために、我々の仲間たちは血の出るような努力があったんです。だとしたらプロゴルファーたるもの、レストランでふんぞり返っているようではいけませんね」
 その大正生まれのプロは、今でもクラブハウスにゴミが落ちていたら、拾って自分のポケットにしまう。
「こうしておけば、いつかゴルフの神様が私にも微笑んでくれると思って」
 そう照れ笑いしながら。
 私がプロゴルファーになることはないが、しかしどんなに上達しても威張っているようなゴルファーにだけはなりたくない、と思う。そうすればレストランの雰囲気も、少しは和むはずである。

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